IEC 62368-1 技術解

 

外部回路(新用語) vs TNV回路(旧用語)

 

この技術解説は、A/V、情報及び通信技術機器の新安全規格のIEC 62368-1に含まれる主要コンセ プトや要求事項を紹介する一連の解説のうちの一つです。

 

IEC 62368-1では外部回路を「electrical circuit that is external to the equipment and is not mains (機器の外部にある主電源ではない電気回路)」と定義しています。外部回路はES1、ES2又は ES3、及びPS1、PS2又はPS3として分類されます。これまでの解説で、これらの回路のタイプは、 その特定の定義によって電圧、電流又は電力制限されている場合があることを学習しましたが、外 部回路に関しては、限度値が定値されているわけではありません。これは、電圧及び/又は接触電 流に厳格な限度値を持つIEC 60950-1で使用されるTNV回路とはかなり異なります。

 

表16「外部回路過渡電圧」では、特定の外部回路のタイプを (a) 建造物内に完全にインストールさ れているかどうか、又は (b) ケーブル又は接続されたネットワークの一部が建物又は構造の外部に あるかどうかに基づいて定義しています。各個別回路(ケーブル)タイプは、ID、例えば、表16、 ID番号11、ペア導体、シールドなし等が指定されます。

 

62368-1の参考情報の附属書Wでは、「external circuit(外部回路)」の用語を60950-1の 「Telecommunications Network(電気通信ネットワーク)」と比較しています。電気通信ネットワ ークの用語は、IEC 62368-1では使われていません。使われている新用語の方がより広範で、例え ば、建物内全体に通されたペア導体や、屋外アンテナに接続された同軸ケーブルなど、機能よりも 配線や設置の物理的特性を対象としています。しかし、実用目的においては60950-1の観点で(電 気通信ネットワークから)TNV-1又はTNV-3回路に適用される要求事項については、62368-1の観 点で表16、ID番号11、12、13、14に詳述される外部回路と本質的に同じです。62368-1での違い は、これらの外部回路はもはや電気通信ネットワークに関連するものに限定されないということで す。(注記 – 附属書Wの一部の相関、及び第1版を通しての表16への参照の一部に一貫性がないよ うです。ここは今後の第2版に向けて作業中の一部であり、今後の表16の内容は、第1版の内容よ りもかなり異なることが予想されます。)

 

「TNV」という用語は、元々IEC 950で規定されていたものよりも具体的な用語である「電気通信 ネットワーク電圧」から進化したものですが、IEC 60950-1では電気通信器具だけでなくより広範 に適用されるもっと一般的な用語となっています。電気通信ネットワークへの接続については、別 途その規格の箇条6に規定されています。ここに、特に電気通信ネットワーク及び電気通信配線に 関する要求事項が規定されています。これには分離に関する要求事項、ユーザーの過電圧からの保 護(耐電圧及びインパルス試験、等)、及び過熱からの配線の保護を含みます。箇条の題名が暗示 する通り、これらの要求事項は電気通信ネットワークに接続される回路にのみ適用されます。同様 に、箇条7は、特にケーブル配電システムに関する要求事項について規定しています。

 

IEC 62368-1では、「外部回路」という用語は、電気通信システムに接続される回路に限定されず、 要求事項でもそのように限定されていません。現在定義されている方法では、外部回路は、 Ethernet LAN、ケーブルボックスとTV間のHDMI接続、又はサラウンド音響や「ゾーン2」スピー カー用に配線されたペアケーブルを含みます。その結果、そして具体的な外部回路のタイプが特定 される稀なケースを除いて、外部回路に関する要求事項はこれらすべての例とそれら以上に適用さ れます。

 

(この62368-1の観点は、IEC TR 62101が「ネットワーク環境」(例、ネットワーク環境0、ネッ トワーク環境1)の観点での外部回路の見方に近いものですが、IEC 62368-1の新用語と相関させる ためにIEC TR62102でも一部更新を要求していくことになると考えられます。IEC TR 62102もIEC TC108によって維持管理されており、テクニカルレポート「Electrical safety – Classification of interfaces for equipment to be connected to information and communications technology networks (電気安全 - 情報及び通信技術ネットワークに接続される機器のインターフェースの分類)」とな っています。)

 

電力制限

IEC 60950-1は、電気通信ネットワークから得られる電力は15Wに制限されていると見なします (1.4.11参照)。IEC 62368-1ではこれらの外部回路をPS1と見なします(6.2.2.4参照)。PS1回 路は3秒後に15Wに制限されており、材料が発火温度に到達するのに十分なエネルギを持つとは見 なされていません。

 

過渡現象

IEC 62368-1の現行版では、非電気通信外部回路が過渡現象の分野で対応されている方法に一つ重 要な変更があります。以前の規格とは異なり、建物内配線(完全に建造物内にある配線)は、潜在 的な過渡現象があるとして認識されています。その例については表16を参照ください。

 

しかし、これらの過渡現象のタイプに関連する問題は、直接的な安全関連の問題(例えば、火災の リスク、アーク放電、絶縁損傷)よりも、一般的に性能問題(例えば、ICの故障)に限定されます。 その結果、完全に建造物内にある回路の過渡現象を考慮する必要性をいずれ制限する(次の版にお いて)可能性の作業が現在TC108によって実施されています。現行版においても、建物内回路の過 渡現象は、外部回路の過渡現象からの保護ではなく、単に空間距離と試験電圧の決定のための検討 材料となっています。

 

これでもまだケーブル又は接続ネットワークの一部が建物又は構造外にある外部回路が残されてい ます。IEC 60950-1では、過渡現象の考察を、主電源、電気通信ネットワーク及びケーブル配電シ ステムに限定していました。リストは、これらのネットワークを「between separate buildings (別々の建物の間)」又は「between outdoor antennas and buildings(屋外アンテナと建物の 間)」と詳述することで更に狭めていました。

 

IEC 62368-1は、過渡現象を考慮しなければならない場合、より広範な状況を模写しています。回 路のリストは今では電気通信及びケーブルネットワーク又は屋外アンテナに限定されておらず、今 では(建物の間だけではなく)建物又は構造外に出る可能性のあるすべての回路も含みます。その 結果、建物の外角に取り付けられた防犯カメラの配線で利用されるPower over Ethernet(PoE)回 路は、今後は外部回路で考えられる過渡現象を調べる場合には、より明確に検討する必要が出てき ます。

 

接触電流

IEC 62368-1の細分箇条 5.7.8の「Summation of touch currents from external circuits(外部回路か らの接触電流の合計)」は、IEC 60950-1の細分箇条 5.1.8.2の「Summation of touch currents from telecommunication networks(電気通信ネットワークからの接触電流の合計)」の要求事項と似て います。しかし、機器によって電気通信ネットワークへの接触電流を制限することに対しては、大 きな違いがあります。

 

IEC 60950-1は、これらのネットワークに0.25 mAという非常に厳格な限度値を課しています。IEC 62368-1では、クラス1エネルギ源と熟練者又は教育を受けた人の間にセーフガードは要求されず、 結果としてリミットは0.5 mA以内となっています。さらに、熟練者(電話の修理工など)は、結果 として接触電流リミットは5 mAとなるクラス2エネルギ源に対するセーフガードとしてスキルを使 用すると想定されます。

 

建物配線の保護

IEC 60950-1及びIEC 62368-1は両方とも有限電源(LPS)に関する要求事項があります。これらの エネルギ源は、一般的な主電源以外の建物配線を含む、外部回路の保護のために一般的に使用され ます。

 

例えば、米国電気工事規程、NFPA 70、Article 725は、有限回路をクラス2及びクラス3回路にとっ て適切な電源であると言及しており、その結果、クラス2又は3の配線/ケーブルを60950-1有限電源 に接続することができます。

 

しかし、二次回路電力を持つ外部ケーブルの保護に関してIEC 60950-1がよくても曖昧なところで、 IEC 62368-1は建物配線への相互接続に関して特定の要求事項を含みます(細分箇条 6.5.4及び附属 書Qを参照ください)。LPSを要求するアプリケーションで使用される場合に、PS2及びPS3回路 に特別な電力制限が課せられます。

 

外部回路配線が、ツイストペア通信ケーブルやLANケーブルなど、一般的に通信アプリケーション で使われる配線によって構成される場合、どちらの規格も、使用される配線の細さ、通常小型のモ ジュール式ハードウェアが使われることを考慮し、電流が1,3 Aに制限されることを要求していま す。IEC 62368-1では建物外に通っているケーブルは、IEC 60950-1のより広範な「電気通信配線 システム」の説明ではなく、このカテゴリーに該当する一般的な配線システムの例として参照して いることが興味深いところです。しかし、これは単なる例として、あるがままに取る必要があり、 この要求事項はこのタイプの配線システムに接続される可能性のあるすべての外部回路に適用され るべきです。

 

次の第2版

IEC 62368-1 第1版の外部回路に関する既存要求事項は、今後第2版において重大な改善と明確化が 必要な個所として、IEC TC108で特定した部分です。そのため、既存の要求事項を理解し、要求事 項をより明確にし、場合によっては簡潔化するための改訂を提案する作業は現在も進行中です。そのため、規格の第1版の外部回路の要求事項に関する現行の議論は、第2版を再検討する中で再考す る必要があると考えられています。

 

この一連の技術解説では、新IEC 62368-1規格に関連する追加の主要トピックについても同様に取 り上げる予定です。